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8.6 苦情処理制度(外商投資法第26条)

外商投資法第26条は以下のように定める:

国は外商投資企業苦情処理業務メカニズムを構築し、外商投資企業もしくは外国投資家から反映された問題を遅滞なく処理し、関連する政策措置を協調して整備する。

外商投資企業もしくは外国投資家は、行政機関およびその職員の行政行為が自身の合法的権益を侵害すると認識する場合、外商投資企業苦情処理業務メカニズムを通じて協調・解決を申し立てることができる。

外商投資企業もしくは外国投資家は、行政機関およびその職員の行政行為が自身の合法的権益を侵害すると認識する場合、前項の規定に基づき外商投資企業苦情処理業務メカニズムを通じて協調・解決を申し立てるほか、法に基づき行政不服申し立てを行い、行政訴訟を提起することができる。

これは、3.2.65.4で論じた、(f)苦情処理制度に関連する。

5.4で述べたように、「商務部の外商投資企業苦情処理暫定弁法」のもとでのメカニズムはあったが、国の法律レベルでこのメカニズムを規定するのは外商投資法が初めてでる。

外商投資法実施条例第29条から第31条にも関連規定がある[1]

行政部門の定めた規定と比べて、法律、行政法規レベルで制定された規則制度はより効果的で、制度の運用に有利である。

外商投資法第26条に規定された外商投資企業の苦情処理メカニズムは、確かに外商投資企業と外国投資家の利益を保護し、外商投資を誘致するのを促進し得るものである。

これら外商投資法および外商投資法施行条例の規定に基づいて、2020年8月25日に外商投資企業苦情処理弁法[外商投资企业投诉工作办法](商务部令2020年第3号)(苦情処理弁法)が公布された。

新しい苦情処理メカニズムは、第一に現在の苦情処理機関が分散していて、位置づけが曖昧であった問題を解決すべきである。外商投資企業協会と台湾苦情調整単位は外商投資企業の苦情処理機関ではなくなったので、苦情処理弁法のもとでの苦情処理機関は、外国投資家と外商投資企業の中国の行政機関に対する苦情を統一的に受理し、処理するものとなったといえよう。

第二に、新たな苦情処理メカニズムはまた、その法律的位置づけ、具体的な受理範囲(最も重要なのは、外商投資企業・外国投資家と行政機関との間の紛争のみを受理するということ)、具体的な調整手順と期限、および処理結果の法的効果を明確にして定めるべきである。苦情処理弁法は、これらを苦情処理暫定弁法など既存の外商投資企業の苦情処理メカニズムの基礎の上に整備するとともに、「苦情申立の主体が外商投資企業・外国投資家に属さない場合・・・苦情処理機関は受理してはならない」(14条1号)と明確に定めた。

以下は、苦情処理暫定弁法と苦情処理弁法の重要な点を対比した表である

 苦情処理暫定弁法苦情処理弁法
外商投資企業苦情申立の定義(苦情受付範囲)中国領域内の外商投資企業とその投資家(以下、申立人と呼ぶ)が、その合法的な権益が行政機関の行政行為によって侵害されていると考えるとき、協調および和解のために苦情受付機関に申立て、または状況を報告し、提案をし、意見または要求を提出すること外商投資企業、外国投資家(以下、申立人と総称する)が、行政機関(法律、法規の授権によるものを含む公共事務を管理する機能を持つ組織)およびその職員(以下、被申立人と総称する)の行政行為により、その合法的権益を侵害され、苦情処理機関に対して協調解決を申請する行為;
苦情処理機関全国外商投資企業苦情処理センターと地方各級政府の受理機能を有する部門(以下、地方苦情申立受付機構と総称する)商務部および県級以上の地方人民政府が指定した外商投資企業の苦情を受理する部門または機構
苦情処理手続・全国外商投資企業苦情処理センターは、外国投資企業から外商投資企業苦情処理全国センターへの直接の苦情申し立てを受け付け、省を跨る外商投資企業からの苦情および外商投資企業から重大な苦情を受け付ける責任があり、全国の外商投資企業の苦情処理に関するトレーニング、研究、管理および調整の責任を負う。 ・地方の苦情受付機関は、現地の外商投資企業の苦情を受け付け、その苦情を外商投資企業苦情処理全国センターに移送しまたはその監督を受けるべき苦情を受け付ける責任を負う。 ・苦情の受付後は、原則として、苦情が発生した土地の現地機関が対応・解決するものとする。苦情を受け付けた後、苦情受付機関は状況を調査し、フィードバック情報を提供し、調整するものとする。・商務部は国務院の関連部門とともに外商投資企業苦情処理の業務部門連合会議制度(以下、聯合会議と略称する)を設け、中央レベルの外商投資企業苦情処理業務を調整し、推進し、地方の外商投資企業苦情処理を指導し、監督する。聯合会議事務室は商務部外国投資管理司に設置され、聯合会議の日常業務を担当し、全国外商投資企業苦情処理センターの指導と監督を行う。 ・商務部は以下の苦情処理事項を処理する責任を負う。 (一)国務院の関係部門、省、自治区、直轄市人民政府およびその職員の行政行為に関わる場合。 (二)国務院の関連部門、省、自治区、直轄市の人民政府に関連政策措置を整備するよう提案する場合。 (三)全国範囲または国際的に重大な影響があり、商務部がその処理をするのが適切と認める場合。 ・商務部は全国外商投資企業苦情処理センター(以下、全国外資クレーム処理センターと略称し、商務部投資促進事務局に一時的に設置する)を設立し、前項に規定された苦情処理事項を具体的に処理する。 ・全国外資苦情処理センターは外商投資に関する政策法規の宣伝を編成し、外商投資企業の苦情処理業務の訓練を展開し、苦情処理事項の処理経験を普及させ、関連政策の提案を提出し、地方に外商投資企業の苦情処理業務をしっかりと行うよう促し、苦情事項の発生を積極的に予防する。 ・県級以上の地方人民政府は、部門または機構(以下、地方苦情処理機構という)を指定し、苦情処理業務を担当させなければならない。地方苦情処理機構は苦情処理業務規則、苦情処理方式の健全化、苦情事項の受付範囲と苦情処理時間の制限を明確にしなければならない。 ・地方苦情処理機関の苦情受理者は、その地域の行政機関およびその職員の行政行為への苦情を受理するとともに、その地域の関連政策措置の整備を提案する。
苦情処理手続(i) 苦情申立資料の審査 苦情受付機関は、申立人から苦情を受け付けた後、5営業日以内に申し立てを受理するか否かを決定する。 苦情受付機関による審査の結果、受理の条件を満たしていないことが判明した場合、苦情受付機関は5日以内に申立人に拒絶通知を発行し(拒絶理由を明記する)、苦情申立資料を返却するものとする; 苦情申立資料をさらに補足および改善する必要がある場合、苦情受付機関は、5日以内にそれらを補足および改善するように申立人に通知するものとする。 (ii) 苦情の受理および登録 苦情受付機関は、受け付けた苦情の受付登録を適時に処理し、ファイルを作成し、受付日を明示するものとする。 (iii) 被申立人への通知 (iv) 苦情の処理 苦情受付機関は、30営業日以内に苦情処理を完了するものとする。当事者が苦情受付機関に協力せず、または紛争自体や紛争の事実関係が複雑なため、30営業日以内に苦情を処理できない場合には、遅滞なく申立人に通知する。 (v) 苦情処理完了後、苦情処理の結果を申立人に通知する (vi) 案件結了登録を行う(i) 苦情申立資料の審査 苦情申立資料が揃っていない場合、苦情処理機関は苦情申立資料を受け取ってから7営業日以内に一括して書面で申立人に15営業日以内に補正するよう通知しなければならない。補正通知は補正が必要な事項と期限を明記しなければならない。 苦情処理機関は完全に揃った苦情申立資料を受け取ってから7営業日以内に受理するかどうかの決定を行わなければならない。 (ii)苦情の受理・不受理 苦情申立の受理条件に該当する場合は、受理し、苦情申立受理通知書を交付しなければならない。 苦情申立の受理条件に適合しない場合、苦情処理機関は7営業日以内に申立人に対して却下通知書を発し、却下の理由を説明しなければならない。 (iii) 苦情の処理 ・苦情処理機関は苦情申立を受理した後、申立人と被申立人と十分に意思疎通し、状況を理解し、法律に基づいて協調して処理し、苦情申立事項の適切な解決を進めなければならない。 苦情処理機関は苦情処理をする時、申立人に状況の説明、資料の提供、その他必要な協力を求めることができる。 ・苦情申立事項の具体的な状況によって、苦情処理機関は会議を開催して、申立人と被申立人の共同参加を求め、意見を述べ、苦情申立事項の解決案を検討することができる。苦情処理機関は苦情処理の必要に応じて専門家の意見を聞くことができる。 ・申立人と被申立人が和解協議に署名する場合、和解した事項と結果を明記しなければならない。法により締結された和解協議は、申立人と被申立人に対し拘束力を有する。被クレーム者が発効した和解協議を履行しない場合、「中華人民共和国外商投資法実施条例」第41条の規定により処理する。 ・苦情処理機関は苦情を受理した日から60営業日以内に受理した苦情事項を処理する。関与する部門が多く、状況が複雑な苦情処理事項に関しては、適切に処理期限を延長することができる。 ・苦情処理事項を受理の日から一年経っても・・・処理が終了しなかった場合、苦情処理機関は適時に当級の人民政府に関連状況を報告し、関連業務の提案を提出しなければならない。 (iv) 苦情処理が終了したら、苦情処理機関は3営業日以内に苦情処理結果を書面で申立人に通知する。
苦情の具体的な処理方法(i) 意見書を提出すること 苦情受付機関は、事実と関連法令に基づき、苦情の解決を促進するために、申立人および関連部門に解決策の提案を提出するものとする。 (ii) 関連部門との行政上の調整 (iii) 当地の苦情受付機関または関連部門に移送して対応を求める。 (iv) その他の適切な対応方法(i)申立人と被申立人の理解を促す(和解合意を含む); (ii)申立人と協調する; (iii)県級以上の人民政府およびその関係部門に関連政策措置の整備に関する提案を提出する; (iv)苦情処理機関が適切と認めるその他の処理方法。
苦情処理への不服申立規定なし申立人が地方の苦情処理機関から却下決定を受けまたは苦情処理の結果に異議がある場合、原苦情事項について上級機関に逐次不服申立をすることができる。上級の苦情処理機関は、当該機構の苦情処理業務規則に基づいて、原苦情事項を受理するかどうかを決定することができる。

新しい苦情処理メカニズムは行政不服審査、行政訴訟のメカニズムとの関係を明確にすべきである。

この点、苦情処理弁法は「申立人が本弁法の規定に基づき、行政機関との間の紛争を協調的に解決することを申請しても、法定時間内に行政再審査、行政訴訟などの手続きを提起する権利に影響しない。」(18条)と定める一方、「同一の申立事項がすでに行政不服審査、行政訴訟などの手続に入っている場合・・・苦情処理機関は受理してはならない」(14条9号)と定めている。

このように、外国投資家は、関連部門が審査・承認すべきであるのにしないなど、具体的な行政行為がその合法的利益を侵害すると考えるときは、行政不服審査や行政訴訟を提起することもできる。

しかし、行政不服審査や行政訴訟などの紛争解決方式はそのメカニズムに固有の弊害と弱点が存在している。第一に、それらは司法または準司法手続に属する。強い効力を有するが、手続が複雑で、時間がかかる。第二に、当事者対立構造をとり、双方の対立性が強く、また不服審査や判決の結果は硬直的である。

また、苦情処理メカニズムは、具体的な行政処分だけでなく、幅広い事柄をカバーし、例えば、政府職員が企業の参入承認過程において企業の運営に干渉するため企業に圧力をかけたり、政府が企業経営に不利な影響を与える可能性のある措置を打ち出したりした場合にも苦情の申し立てができる。苦情処理メカニズムは中国の政府職員を監督し、適切に職責を履行させる役割を果たし得る。

したがって、外国投資家と外商投資企業は行政不服審査または行政訴訟をする前かそれと同時に、苦情処理メカニズムの利用を考慮すべきである。外商投資法第26条は、外商投資企業またはその投資家が行政不服審査を申し立て、または行政訴訟を提起することを認めている。

行政不服審査は、行政不服審査機関が申し立てに基づき、公民、法人またはその他の組織がその合法的権益を侵害すると認める具体的な行政行為に対する不服申し立てを受理し、審理し、決定する制度である[2]

行政不服審査法[行政复议法]第6条は、行政不服審査の申立てを行うことができる範囲を定めたものであり、それには以下を含む。

・行政機関による警告、罰金、違法所得の没収、違法財産の没収、操業停止を命じる業務停止、一時差止めまたは免許証の取り消し、行政拘留などの行政処罰に対する不服。

・行政機関による許可証、免許証、資格証等の証明書の発行、変更、中止、取消に関する決定に対する不服。

・行政機関が合法的な経営自主権を侵害していると考える場合。

・法定の条件に合致していると考えられるにもかかわらず、行政機関が許可証、免許証、資格証などの証明書の発行の申請、または審査・登録の申請に対し、行政機関が法に従い手続をしない場合。

中国の現行の法律法規によると、行政不服審査機関は主に以下の種類がある:

申立て対象の行政行為を行った行政機関。

・申立て対象の行政行為を行った行政機関の上級行政機関。

・申立て対象の行政行為を行った行政機関が所属する人民政府。

行政訴訟は行政の主体と行政の客体の間で行政紛争が起きた後、行政の客体が行政の主体の行政行為がその合法的権益を侵害すると判断した場合、法に基づき人民法院に訴訟を提起し、人民法院が法定の手続きに基づいて行政紛争を審理し、訴訟対象の行政行為の合法性を審査し、判決を下す訴訟制度である。[3]

行政訴訟法第12条第1項は行政訴訟の申し立ての範囲を規定しており、以下のものを含む。

・行政許可を申請したのに、行政機関が拒絶し、または法定期間内に回答しない場合、または行政機関が下した行政許可[4]に関するその他の決定に不服がある場合。

・徴収、収用の決定および補償に不服がある場合

・行政機関が行政権力を濫用して競争を排除または制限していると考える場合。

・行政機関が法に従い履行せず、約束通りに履行せずまたは違法に政府の特許経営合意、土地家屋徴収補償合意などの合意を変更しまたは解除したと考える場合。

👉3.2.6 5.4


[1] 第29条 県級以上の人民政府およびその関連部門は、公開性・透明性・効率性・利便性の原則に従い、外商投資企業苦情申立業務制度を構築・整備し、外商投資企業またはその投資者が報告する問題を遅滞なく処理し、関達政策の措置を調整・完全化するものとする。

国務院商務主管部門は、国務院の関連部門と共同で、外商投資企業苦情申立業務の省庁間合同会議制度を確立し、中央レベルの外商投資企業苦情申立業務を調整・促進し、地方の外商投資企業苦情申立業務に対する指導と監督を行う。県級以上の地方人民政府は、当該地区の外商投資企業またはその投資者が申し立てる苦情の受理を所掌する部門・機構を指定するものとする。

国務院商務主管部門と県級以上の地方人民政府が指定する部門・機構は、苦情申立業務規則を完全化し、苦情申立方法を整備し、苦情申立処理期間を明確化するものとする。苦情申立業務規則、苦情申立方法および苦情申立処理期間は、対外的に公表するものとする。

第30条 外商投資企業またはその投資者は、行政機関およびその職員の行政行為が自らの合法的な権益を侵害したものと考え、外商投資企業苦情申立業務制度を通じて調整・解決を申請する場合は、関連方面が調整を行う際に申請を受けた行政機関およびその職員の状況を調べることができ、申請を受けた行政機関およびその職員は、とれに協力するものとする。調整の結果は、書面の形式をもって遅滞なく申請者へ告知するものとする。

外商投資企業またはその投資者の前項の規定に従った関連問題の調整・解決の申請は、その法により申請する行政不服審査、および提起する行政訴訟に影響を及ぼさない。

[2] 戚建刚他, <行政法与行政诉讼法入门笔记>120 (2017), 法律出版社

[3] (戚建刚他) 139

[4]行政許可は、行政許可法第2条において、行政機関が、公民、法人または他の組織の申請に基づき、法に基づき審査し、特殊な活動に従事する行為を許可すること、と定義されている。

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